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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)1400号 判決

控訴人(原告) あさゑ改 小山歓英

被控訴人(被告) 国

訴訟代理人 平田浩 外一名

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人の訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し戸籍上愛媛県宇摩郡土居町大字北野二四九二番地真鍋晴紀の戦死に因る公務扶助料金三〇九、五六一円を支払え。訴訟費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴指定代理人は第一次的に主文第一、二項と同旨、第二次的に控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張並びに証拠の提出・援用・認否は、左に記載する外は、原判決の事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一、控訴代理人において

真鍋晴紀が戦死した昭和一九年当時には昭和二三年法律第一八五号による改正前の恩給法七二条第一項が適用されていたので、その実母である控訴人には恩給を受くる権利がなかつた。昭和二三年法律第一八五号による改正の恩給法七二条第一項によると、公務員の母として恩給を受けるには戸籍上の母たることを要しないで事実上の母であることをもつて足ることとなり、この改正法は昭和二三年一月一日から実施された。そこで控訴人は実子である真鍋晴紀の昭和一九年戦死を事由とする恩給受給の権利を右改正法実施の日時から取得している。右は恩給の永続性であることより生ずる事態に外ならない。

と述べ、

二、被控訴指定代理人において

本案前の主張として、恩給を受ける権利は、恩給法一二条(昭和二六年四月一日以前に給与事由を生じたものについては昭和二六年法律第八七号附則第七号により同法律による改正前の恩給法一二条)所定の裁定をまつてはじめて具体的な請求権として確定され、その給付を求めることができるのであつて、この手続を経由することなく直接裁判所に対して恩給を受ける権利の確認訴訟または給付訴訟を提起することは許されない。従つて、恩給法所定の裁定手続を経由することなく提起された控訴人の本訴は不適法として却下せられるべきである。

本案の弁論として、原判決二枚目裏終から二行目に、(恩給法第七四条の二)とあるのを(昭和二三年法律第一八五号附則第一条、同法律による改正前の恩給法第七二条)と訂正する。

と述べた。

理由

まず控訴人の本訴請求が適法であるかどうかにつき判断する。

本訴の要旨は、

亡真鍋晴紀は、控訴人と亡進藤信義との間に生れた子で、控訴人が養育し生計を共にしていたものであるが、戸籍上愛媛県宇摩郡関川村(後の土居町)の訴外真鍋喜市と同真鍋フシノの子として記載されていたところ、軍隊に入隊し、昭和一九年一〇月二四日比島方面において戦死し、松山聯隊区司令官より右関川村長あてに昭和二〇年五月二八日亡真鍋晴紀戦死の報告があつた。よつて控訴人は亡真鍋晴紀の実母として昭和二三年法律第一八五号による改正の恩給法七二条第一項の規定にもとづき被控訴人に対し、昭和二九年一月から昭和三五年一二月まで年額金四四、二二三円の割合による公務扶助料合計金三〇九、五六一円の支払を求める。というのである。

よつて、考えるに、恩給を受ける権利は給与事由の発生と同時に生ずるが、本件給与事由は昭和二六年四月一日の前に生じたとするのであるから、昭和二六年法律第八七号により改正前の恩給法第一二条の規定にもとづき総理府恩給局長の裁定をまつてはじめて具体的な請求権として確定され、その給付を求めることができるのである。従つて、かような裁定手続を経ることなく、直接裁判所に恩給(扶助料を含む)を受くる権利の確認または給付訴訟を提起することは許されないものと解すべきである。よつて本訴は不適法というべきである。

そうすると、これと異る原判決は右の如く変更する要があるので原判決を右の如く変更し、民事訴訟法三八六条八九条九六条九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中正雄 河野春吉 本井巽)

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